車検 大阪内容の要約
広報部では、すでに調べていた以上の情報はほとんど入手できなかった。
だが、ND2作戦に関連する情報を抑えようとしてくれたおかげで、皮肉にも、私の方は思わぬ拾い物をすることになった。
たいがいの大企業は、社員や幹部社員を集めた新年社内集会の社長らの年頭挨拶で、その年の経営方針を明らかにする。
T海上も同様で、社内誌「TOKIOMONTHーY」(八八年一月号)は、T社長の年頭挨拶「大きな仕事に向かって思い切ってチャレンジしよう」を掲載していた。
この年頭挨拶はすでに熟読していたが、〈広報の「元気の元素」〉の二見に、念のため年頭挨拶を掲載した文書をくれるよう頼んだ。
たかが社内誌に掲載した社長の年頭挨拶に、二重手間の必要はないようにみえるが、私の予想はずばり当たった。
広報部を訪ねたとき、二見は一枚の文書を「これは純社内的なものを除いてまとめ、社長のOKをとったものですから」といいながら差し出した。
できることなら私にそれを見せたくないという素振りだった。
一見して、それが社内誌に掲載した年頭挨拶の切り貼りであることがわかった。
社外に出しても無害な部分だけを残して張り付け、つなぎあわせたもののコピーだった。
だが、帰宅してから、広報部で入手したいくつかの文書を確かめてみると、それは見当らなかった。
二見の方で、一旦、差し出したものまで、やはり気になって、私に気付かれないように引き上げたようだっだ。
電話で、もらったはずの年頭挨拶がなかったというと、二見は「私もお渡ししたつもりでしたが」といい、重ねてつぎのようにいった。
「社外に公表しない営業戦略の部分は、社外にはどこにもだしていないマル秘の部分ですので、それ以外のところをお送りするということで御勘弁いただきたいのです。
これは業界紙向けに用意したものですが、いまのところ、まだ活字になっていませんので」二見は広報作成の年頭挨拶の切り貼りを送ってくれた。
それを社内誌の年頭挨拶と照合してみれば、社外にたいしてなにを隠そうとしているかがわかる。
実際に照合してみると、ND2作戦につながっていた経営方針や営業方針の部分が、みごとに切り捨てられていた。
T海上は、有能な社員に無様な切り貼りをやらせたのだ。
これは、ND2作戦の「戦後処理」の一つでもあった。
主に大企業を中心に取材してきた私は、「肝心な事実は隠されている」というふうに考えるようになった。
逆の側からいえば、「肝心な事実が明らかになれば、大企業の支配の根幹が明らかになっていく」ということである。
ありがたいことに、T海上の〈広報部一同〉が推薦する〈元気の元素〉は、何が肝心な事実なのかを、物証つきで教えてくれたわけだ。
社長の年頭挨拶から切り捨てられた部分を追跡すれば、なにがND2作戦を生んだのか、またND2作戦の「戦後処理」がどういうふうにすすめられているのか、それらが明かになっていく可能性がある。
したがって、切り捨てられた年頭挨拶の内容を復元しつつ、重要な三つのポイントにしぼってみていく。
年頭挨拶から最初に削除された部分で、八七年中の営業活動と八七年度の残された八八年三月末までの営業について、T社長はつぎのように語っている。
〈昨年末は、積立種目の販売が激戦を続けるなか、一二月単月の大きな営業目標を設定し、必達を期して取り組んでいただき、皆さんには本当にご苦労をかけました。
営業第一線では、社員の皆さん一人一人が、知恵をしぼり、汗を流し、これを支えた各部門の皆さんとともに大へんな努力をしていただいたこの書は、T海上の全面協力で取材し、同社の「お買上げ」となっていた。
私が広報を訪ねたさいにも、〈元気の元素〉が無料進呈で差し出した。
この種の著書は無内容というわけでなく、会社が何を考え何を宣伝しようとしているかを知るには役立つこともある。
ここでいう〈積立種目V8〉などは八七年度〈営業目標〉であり、全国の支店、支社、代理店とそれらの従業員は、これを〈必達〉するため、それぞれノルマをあたえられていた。
横浜支店のND2作戦も、本社のこの〈営業目標〉にしたがったノルマを〈必達〉するためのものだった。
神奈川県下は、全国のなかでも、とりわけ〈積立種目の販売が激戦を続けるなか〉にあり、〈激戦〉の〈営業第一線〉となっていた。
そこで、〈営業目標〉の〈必達〉を期して、S横浜支店長らが〈知恵をしぼり〉、社員たちが〈汗を流し〉たのが、ND2作戦にほかならない。
神奈川県下が〈激戦〉地となったのには理由があった。
T海上は創業以来、百余年にわたって、各保険種目の総合で首位に立ってきた。
とりわけ船舶保険などの企業向け保険分野で強かったが、個人などを対象にした大衆向けの保険分野では遅れをとるようになった。
そのため、七七年度からのGOGO作戦以来、戦争もどきの全社運動を展開し、大衆向け保険部門で激しい巻き返しをつづけてきた。
しかし、全国のマーケットの四分の一を占める一都三県の首都圏では、T海上はいまだに大衆向け保険分野でトップに立てなかった。
そこで、保険の全種目と全都道府県で首位を獲得するという大攻勢をかけたのである。
このへんのことは、秋場良宣著「T海上の決断!」(八七年、講談社刊)に記されていしかも、八七年一二月と年度末の八八年一?三月は、八七年度〈営業目標〉を〈必達〉する山場に〈設定〉されていた。
「ND2作戦スケジュール」表によると、本社べースの昨年末の〈大躍進コンテスト〉に合わせたのが、〈ND2作戦スタートコンテスト〉だった。
また、年度末の八八年二?三月は、本社にいった。
まないためではなく、すでに読んでいたからだ。
この書のなかで、営業戦略を推進しているU康雄取締役営業推進部長が、つぎのように語っている。
〈損保業界にとって、東京は最大の決戦場なんです。
TOOS五カ年計画の最大の目標も首都奪取なんですよ。
社員もそうでしたが、代理店の皆さんの中にも、T海上は、当然トップだという誤解があった。
ところが、実情は決してそうじゃない。
まだ一十県ほどは一位や三位に甘んじているんです。
そのことをアピールすると代理店さんもびっくりしましてね。
「当然、全都道府県でトップだと思っていたのに、本当ですか』と。
このあたり、T海上としてはうれしいところですが、代理店さんも業界トップということに誇りをもっているんです。
トップじゃない実情を知るや「なんとしても首位にならなくては」と急速に結束力が出てくるんです。
これが、いい意味の緊張感となって、トップじゃない地域は急速に首位をとろうと一丸となっています〉こうした本社の方針に乗って、横浜支店でも〈いい意味の緊張感〉を演出するため〈他社社員とはちがうのだ!〉という〈いい意味の戦闘力差〉をエキサイトさせ、戦争まで道具に使って首位奪取戦争を演出したのだ。
ND2作戦決起大会で、S連合軍総司令官が、「首都圏決戦はまず横浜が勝つことだ」と激をとばしたのも、こういう背景があってのことだった。
戦争もどきの競争は、神奈川県下にかぎらない。
広報部も、「やはり、みんなが上に上がりたいから、それぞれの地域でいろんなことをやっています」とースの〈ラストスパートコンテスト〉に合わせ、〈ND2史上最大の作戦地1〉に突入するはずだった。
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